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チャイムの音

チャイムの音

キーンコーンカーンコーン


午後3時、お決まりのかねが今日もなる


ぼくはさいきん、この音を聞くのがきらいだった


「ねーねー帰りおまえんちいっていい?」
「いいよ!先週買ったスマブラやろうぜ!」
「それ俺もきていい?」

「なぁ、お前もくる?」

タツヒコがいつものように俺にも声をかけてくれる


「いやおれ今日もジュクあるから、ごめんな…」

「そうか…」

「おい、はやく行こうぜ、ガオガエンってほんとうにつよいのかよ?」
「じゃあな、あ、ガオガエンはねー」


タタタタタタ…

いつものようにタツヒコたちの足音が遠ざかると、なんだかとてもかなしいきもちになる


ぼくは、ことしの3月までは、ふつーの小学生だった

授業が終わると、タツヒコやカッチャンの家にいって、ゲームをしたり、ときには公園にいって、かけっこだったり、野球だったり、サッカーだったり、いろいろなことをやった

それが、あたりまえのことだとおもっていたし、そんな毎日がずっと続くとおもっていた


ぼくが、”ジュク”というものに行きだしたのは、ことしのはるやすみ、五年生にあがるまえのことだった


ぼくのおねえちゃんはとっても頭がよかった

じぶんからママにジュクにいきたいといいだしたのは、いつのころだろうか、たしか、ぼくが一年生だったころだから、三年生ぐらいだったきがする

それから、みんなでばんごはんをたべるときに、ときどき、おねえちゃんがうれしそうに「せんしゅうのクミワケテストで、はじめてSクラスに入れたの!」「この前のシュウレイテストで、はじめて1位をとったの!」と、いっていたのをぼんやりとおぼえている

そんな姉も、ことし、めでたく、ダイイチシボ―というやつにゴウカクした、なんでも、県内でいちばんむずかしいチュウガッコウらしく、ママが泣いてよろこんでいた


それからしばらくして、ぼくのママがニコニコしながら、ぼくに「あなたもジュクへ行ったらどう?」といってきた

「なんで?」
「あなたも、ジュクに入ってベンキョウすれば、おねえちゃんとおなじようにいいチュウガッコウにはいれるわよ」

そのとき、ぼくのまわりでジュクに行っていたのは、クラスでいちばんアタマがいい、シューイチくんだけだった

なんでも、ジュクというのは、とてもこわいところで、ずっとべんきょうさせられて、しかもしゅくだいがおわるまで、いえにかえしてくれないらしい、そんなはなしをシューイチくんのともだちからきいたぼくは、そのジュクというものにたいして、ちょっぴりヘンケンというものをもっていた


「いいよ、ぼくはタツヒコやカッチャンとおなじチュウガッコウに行くんだ」
「まぁでも、シュンキコウシュウぐらいはいってみたらどう?どうせはるやすみはいえでゴロゴロするだけか外に出てあそぶだけでしょ」

いつでもママは、先回りして、道をふさぐように、ぼくをゆうどうするような気がする


なんで、外に出て、あそんじゃいけないのだろうか

ぼくのおじいちゃんは、よく、こどもはあそびなさい、といっていた

ぼくのおじいちゃんは、ママのパパで、やっぱり、ママにおなじことをいっていたんじゃないんだろうか、ぼくはそれがフシギだった


でも、そうぼくはイをトナえようとして、やめた

もしかしたら、これがオトナへのダイイッポかもしれないというきたいもちょっぴりあったのだが、なにより、ここでなにかいいかえしても、けっきょく、オトナにはいいくるめられるだけなのだと、ぼくのだいろっかんというやつがそうつげていた

「わかった、でもかわりにあたらしいゲームソフトをかって」
「いいせいせきとれたらいいわよ」


こうしてぼくのジュクがよいがはじまった


じつのところをいうと、ぼくはべつにジュクにかようまえから、つうちひょうの成せきがにじゅうまるいがいだったことはとくになかった(三年生のとき、ちょっとカッチャンとボケモンのはなしでもりあがって、おこられて、おんがくのところの、ジュギョ―タイドがまるだったときはのぞく)

じぶんでいうのもへんなはなしだけど、いままでベンキョーでこまったことはとくになかった

ジュクはおそろしいところだ、むずかしいところをやるところだ、しゅくだいがおわりまでカンヅメにされちゃうんだ、そんなへんけんは、さいしょのテストで、クラスでいちばんよくて、先生に「お前すごいなぁ、いままでこのテストでこんないい点数をとったやつはいないぞ」と言われたときから、じょじょにうすれていった


ジュクもべつに、こわいところじゃなかった

ジムのおねえさんはやさしいし、先生はていねいにおしえてくれる、シュクダイも、ぼくにとっては、たいしたリョウではなかった

そんなはなしをジュクの友達のコーヘーにしたら、「なんかドウリョクカイだっけ?すごくセイセキが上がるけど、とってもきびしいジュクがあるらしいよ」「へー」「たしかおまえとおなじ小学校のやつが行ってるってクラスのやつがいってたぜ、えーっとシューなんとかだっけ」

どうやら、シュウイチくんの行っているジュクがとくべつきびしいらしい、ちょっとしたキユウというやつにおわった


なにより、ジュクのべんきょうのペースは、小学校よりずっと早かった、このまえ、算数の時間に、やっとぶんすうのじゅぎょうがはじまったけど、ぼくのジュクではとっくのとうにおわっていて、いまは、つるかめ算というやつをやっていた


だから、小学校のじゅぎょうを受けていると、先生の言っていることがなんでもわかって、なんとなく、じぶんがちょっとえらいようなきぶんになって、ちょっとうれしかった


このまえ、テレビで、ニートとよばれるひとたちが、インターネットのけいじばんというこわいところで、マウントをとりあっている、というニュースをみたが、まさしく、ぼくはクラスのみんなに、さもマウントをとっているような気分だった(でもうえにはうえがいるそれがシューイチくんだ)


でも、さいきん、ゆうえつかんより、かなしいきもちになることが、どんどんふえてきた

みんなとよくしていた、ゴロゴロコミックや、ゲームのはなしにあまりついていけなくなってきたというのもあるけど、なにより、タツヒコやカッチャンとほうかごいっしょにあそべなくなったのが、とてもかなしかった


そういえば、ママはいまだにあたらしいゲームをかってくれない「いつかってくれるの」ときいたら「こんどね」ママはちょっとかおがこわばっていた「オバサン、シワふえてるよ」ゲンコツが飛んできた、これいじょうぼくはなにもいえなくなった


そんなことを思い出しながら、すっかりボロボロになったランドセルをしょって、げたばこへむかった


ザー ザー ザー


雨の音がする、そういえばおきがさこのまえつかっちゃったな、しかたがなく、ランドセルを肩からはずして、あたまのうえにかかげた


一年生のときだ

むかしからお前はウチベンケーだ、そうパパにいわれたのをよくおぼえている、そのときはいみがよくわからなくて、でも、ぼくはなかなかクラスになじむことができなかった

つゆのまっただ中だった、そんなこともわすれて、ぼんやりとユーウツなきもちで学校にむかったので、いえにかさをわすれてしまった

ザー ザー ザー

どうしよう、ぼんやりとしょうこうろの前でぼくはひとりたちつくしていた

「なぁ」
「え」
「ピカピカのおまえ、かさないの」
「?」
「くろいランドセルがピカピカの、おまえだよ」
「あっ…うん」
「おれもないんだ、なぁカッチャン」
「うん、みごとにいえにおいてきちゃったよ」
「よし、みんなではしってかえろーぜ」
「お、タツヒコいつもやつやるか」
「おう、キョーソーするぞ」
そういうと、タツヒコは、ちょっとボロボロになったくろいランドセルをあたまのうえにかかげた
「おい、おまえもはやくやるぞ」
「え、でも」
「なんだよ」
「ぼくたち、いっかいもしゃべったことないし…」
「いましゃべったじゃん」
「トモダチでもないし…」
「じゃあいまからトモダチだな!」
「え」
「おまえ、なまえは?」
「かける、たなかかける」
「おーい、カッチャン、カケル、はやくいこーぜ」
「よーし、みんなでこうもんまでキョーソーだ!」


よーいどん、みんなでこうもんめがけてはしっていた

かおが雨でぬれた、でもその雨は、なんだかいつもよりシャワーみたいできもちよかった



よーいどん、ぼくはひとりでつぶやいて、こうもんめがけてはしっていった

かおが雨でぬれた、でもその雨は、なんだかいつもよりちょっとしょっぱかった

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